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美月から、2nd、3rdシングルを録音したいと要請があり、慌ててプロデューサー達は機材をセッティングする。
彼女はマイクを細い折れそうな腕で調節すると、シンセの音に合わせて歌い始める。
スタッフ全てを魅了する繊細にしてダイナミックな歌声。
作詞作曲もシンセのチューニングも全て彼女がする。
2ndはハードなR&Bソング。
3rdはロックバラード。
美月の表情に疲れが浮かぶ。
けれど彼女は一アルバム分、計十曲を歌い切り、休憩を取った。
†††
「美月さん、大丈夫ですか?」
思わずプロデューサーは彼女に尋ねる。
「今日はこれで終わり。2ndと3rdアルバムは今度にするわ。」
痩せ細った華奢な身体のどこにこんなパワーがあるのだろう???
プロデューサーやスタッフ達はそんな気持ちになりながら、スタジオを後にした。
†††
アルバム…2nd、3rdシングルは全てワンテイクで録られた。
ワンテイクで充分過ぎる位素晴らしいのだ。
「美月は…完璧なシンガーだな…ポップス、R&B、ジャズ、ロック、バラード、ラップ、何でも歌いこなせる。」
プロデューサーは溜息を漏らす。
「曲作りも全て、ですよ?…有り得ない…」
歌声をチューニングするのも伴奏のシンセの音とのマニピュレートも全て美月がする。
スタッフには一切ささない。
しかし彼女の幅広い、繊細な声が重なり合うと素晴らしいハーモニィが生まれる。
仕上がりにプロのマニピュレーターも舌を巻いた。
「この曲…一人で全て???」
「ああ…」
「天才誕生だ…」
「ああ…だが…」
プロデューサーは不意に口ごもった。
†††
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