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翌朝、目が覚めると彼女の姿は無く、ラップされた朝食と書き置きがあった。
『昨夜はごめんね。実は就職の事とかで悩んでて、少し落ち込んでたの。だからあんな暗い事考えちゃって…。でももう大丈夫。あなたの寝顔見てたら元気出たから。
君は今日の講義は昼からでしょ?先に大学行ってるね。じゃあ、また後で。
p.s.
お昼は一緒に食べようね!この前できたレストラン行ってみようよ♪』
眠い目をこすりながらその手紙を読んだ僕は、愛奈が朝食に作ってくれた目玉焼きと味噌汁を食べて、学校に行く準備を整えた。
そして、玄関で靴を履いている時、携帯が鳴った。
知らない番号だった。出るかどうか少し迷ったが、なかなか鳴りやまないので仕方なく電話に応対した。
「私、愛奈の友達です。愛奈が…車に轢かれて…、今、病院で……っ」
受話器の向こうの泣き声が、やたら遠く聞こえた。
* * *
僕が救急病院に着いた頃には、愛奈は既に息を引き取っていた。
顔には傷一つ無く、寝ているだけにしか見えなかった。
けれど、彼女は、もう息をしていなかった。
二度と目を覚ますことのない眠り。
それが…死。全ての生き物が辿り着くべき終着点。
それはなんと美しく、残酷なものなのだろう。
僕は、愛奈の遺体の顔を見て、美しいと感じてしまった。
この瞬間にそれを感じてしまった自分を、一生忘れることは出来ないだろう。
一時間後、彼女の両親が駆け付けた。
母親は、愛奈の遺体を見た途端、操り人形の糸が切れたようにその場に座り込み、父親は僕の胸ぐらを掴んで、僕を責め立てた。
愛奈の友人の女の子が、必死で彼をおさえようとした。私が彼女を止められなかったのが悪いんですと…泣きながら。
彼女の話によると、講義の空き時間に二人で学外のコンビニに向かったとき、本当に突然、車道に飛び出したらしい。
何かを落としたのか、逆に何かを見つけたのか、はたまた…自殺なのか…
今となっては、推測することしか出来ない。
ただ、事実のみがベッドに横たわっている状態で。
頭では理解できても、責める対象がほしかったのだろう、父親は先ほどより声色が弱くなりながらも、「お前がもっとちゃんとしていれば」と僕の胸ぐらに皺を刻みながら、涙を流していた。
僕は、そんな三人に、ただ「すみません」としか言えなかった。
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