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葬儀には、多くの人が集まった。
大勢の友達や、親戚の面々、ゼミで愛奈に教えていた講師も来ている。
彼女の遺影は、今も明るい笑顔を振りまいていた。
二度と消えることのない笑顔。変わることのない遺影の表情に、人を悲しくさせる笑顔があることを教えられた。
参列した人の多くは、そんな彼女の遺影を見て、涙を零した。
彼女は、こんなに多くの人に愛されていたんだ。
僕は、この場にいる誰よりも愛奈のことを愛している自信があった。
けれど、まるでずっと昔から涸渇しているかのように、涙は出なかった。
* * *
火葬の時、彼女の家族や、彼女に近しい何人かの人が立ち会った。
棺が、炉の中へと収まってゆく。
僕は、深く後悔していた。
ゆうべ話した最後の言葉は何だったっけ。
ゆうべの愛奈の笑顔は、いつもより元気がなく、作り笑いだった気がする。
だとしたら、最後に彼女の心からの笑顔を見たのはいつだったろう。
なんですぐに気付いてやれなかったんだろう。もっと親身になって愛奈の話に耳を傾けてやればよかった。もし自殺だったなら、そうすれば愛奈は飛び出して轢かれることもなかったかもしれない。
そうじゃなかったとしても、気付いてやって、一緒に学校に行っていれば、愛奈を守ってやることができたかもしれない。
今更どうにもならないということはわかっていた。けれど、愛奈の父親に言われた台詞がその通りだと実感した僕の胸は、張り裂けんばかりの痛みを訴えていた。
僕は悔やみ、考えた末、ご両親にひとつ頼みごとをした。
「愛奈さんの遺灰を分けていただけませんか」
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