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僕が、愛奈をそばに置いていたいと言うと、ご両親は遺灰を分けてくれた。
これで、愛奈とずっと一緒にいられる。これが、僕が彼女と親しかった人やご両親にできる唯一の償いだった。
葬式の帰り、僕は近所のスーパーに寄って、夕食の買い物をした。
彼女が死んでから今日まで、料理や買い物をする気になれなかった僕は、ろくに食べ物を口にしていなかった。
豚肉、ジャガ芋、人参、玉葱…
愛奈は、僕が作るカレーが大好きだった。具が大きくて、男らしい感じが好きだったそうだ。
あんな不格好なカレーのどこがよかったのだろう。時々生煮えな具があったことを覚えている。
家に帰り着くと、僕は久しぶりに台所に立った。
久々の料理に、僕は随分手間取っていた。
指に切り傷を負ったり、跳ねた油で火傷したり…玉葱を炒めるだけで満身創痍だった。
「ふう、なんとか出来た…さて、後は煮込むだけだ」
そこで僕は、遺灰が入ったペンダント型のカプセルを見て、彼女の言葉を思い出した。
『私、あなたに食べてほしいな』
「……隠し味に、愛奈を少々」
カプセルの中身を、半分だけ鍋に入れ、かき混ぜた。
カレーが出来上がったときには、時刻は午前0時をまわっていた。
「我ながら、うまそうだ」
そう呟いて、味見もせずに皿にご飯とカレーをよそう。
テーブルについて、一人で手を合わせ、「いただきます」を言った。
ひとくち、カレーを口に運ぶ。
愛奈は、この味が好きだった。
完全に火の通ってなかった人参が、僕の口の中でガリッと音を立てるのを聞いて、頭の中の彼女はコロコロと表情を崩して笑っていた。
このカレーの中に、彼女はいた。
そして今、僕の中で笑っている。写真の静止画像ではない、見ていて飽きることのない笑顔がそこにはあった。
「…うん、美味しい。
美味しいよ、愛奈…」
僕は少しだけ、泣いた。
~完~
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