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朝、目が醒めたら隣にはいたはずの人の姿がありませんでした。
「…ぶっ、ぐ…ぶはっ」
その口をふさいでやりたい。
「っく、あ、ははははは!!!」
人の不幸を笑うンじゃねぇ。
「ほんっとアホ、アホだ、ここにアホが居る!」
俺を指差して笑うのは、親友だって言い張る男。
耳にかかるくらいの黒髪がサラサラして綺麗。
アダ名をナギという。
「…るせぇ」
ふてくされた俺の頭をばしっと容赦なく殴って。
「本当さぁ、…いい加減にしなって」
馬鹿笑いした後は真摯な目で見つめてくれた。
わかってる、本当に心配してくれてるなんてそんなこと。
女の子は好きだよ。
だけどなんでだろう。
本当は俺、お前が好きなんだって言ったらお前、どんな顔するかな?
なんて。
恐ろしいことを考えて、打ち消すように頭を振った。
むりむり考えんな、俺。
だってコイツの恋人のことも俺、嫌いじゃねぇし。
っていうか、むしろ好き?
ナギの恋人のセンは、こいつとより付き合いがながくて。
ついでに男だけど、俺だってなんでかナギに惚れたから嫌悪感はない。
センとはオムツしてたころから親が友達だったりする。
だから。
俺の知らないうちに良い仲になったこいつらが…
いきなり「恋人でーす」なんていったときは…
二人まとめて海に沈めてやろうかと、本気で考えたりもした。
結局幸せそうなこいつ等の顔みてて、そんな気もうせたけど。
そのときは、ナギが好きって、気がつかなかったんだ。これ幸い。
なんでこんなにショックなのか、とか…気がついたのは…
そのとき付き合ってたカノジョの一言。
『あんたさ、他に好きな人いるでしょ』
今思えば、あの子が一番理解あったと思う。
間違いは正してくれたし、かいがいしく世話を焼いてくれたり、突き放したほうがいいときはそうしてくれたり。
母親を幼い頃になくした俺は、本当におかあさんってこんな人が理想なんだよな、子供できてこいつが母とかだったら最高、なんて本気で思ったりもした。
でもその絵の中に俺は居なくて。
俺が隣にたって子供を挟んで、っていう幸せな構図は、どうしても思い描けなくて。
『幸せになりなさいよ』
その女は、そんな一言を残して去っていった。
本当、清清しい女だった。また女つくるんなら、あいつみたいな女がいい。
多分フられるけど。
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