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「ねえ、一緒に何かして遊ぼうぜ」
裕太はそう言うと、ボールを拾って真っ先に公園の広いところへ駆けて行った。
「そうね」
明美もそう言うと、聡史と一緒に裕太に続いた。そして未希が真理子の方を見て、聡史が振り返ったその瞬間、真理子の周りで時が止まった。
「え…」
真理子は驚いた。と、後ろから声が聞こえた。子どもたちとは全く異なる声である。
「やあ、真理子はん、どうしますか?」
振り向くと、黒いローブの男が立っていた。顔はフードでよく見えないが、男かどうかは声で分かった。
そして男がゆっくりとフードをとると、その顔は20代半ば位の大人の男であるのが分かった。当然だが真理子よりも背が高く、そして意外なのは、黒いローブに似合わず陽気な顔つきであるというところである。真理子は何故かは分からないけど、この男が死神であると察した。
「で、どっちの子にするんでっか?」
死神は残っている未希と聡史の方を見た。
どっちの子…。
真理子は一瞬忘れていたことを思い出した。24時間以内に自分と同じくらいの歳の子を選んで、代わりに死んでもらうという事である。真理子は慌てて答えた。
「あの子らにはしないって。って、あんたずっとそこにいたの?」
真理子の真剣な言い方に反して、死神は能天気にそうだと告げた。
「ちょっとバレバレじゃない!姿消しなさいよ!」
真理子は慌ててそう言ったが、死神は平静だった。というよりは、むしろ面白がっているようにも見える。
「いやー大丈夫。あっしの姿は『生きているもん』には見えないようになっとるんです。心配せんでもよろしいです」
死神の『生きているもん』という言葉が真理子の胸に突き刺さった。と同時に、真理子の頭にあの交通事故の場面が蘇った。
「さ、早よう決めといてな。あんたの代わりに、死ぬ子を」
死ぬ子…。
その瞬間、また時が流れた。
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