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「あ、」
真理子の目の前に、大人が立っていた。郵便屋のような服装で郵便屋のようなバッグ。というより郵便屋そのものだった。
「こんにちは」
郵便屋はにっこり笑って真理子に挨拶をした。腹は立ってはいたが、郵便屋に当たっても仕方がないことくらい真理子にも分かったので、余計にイライラした。
「こんにちは」
真理子のそれは、あからさまに機嫌の悪い挨拶だった。
「お尋ねしますが、あなたは植村真理子さんでよすね」
「お尋ねされているっていうよりは、確認されてるって感じよ。当たってるけど」
真理子は少々挑発的に言葉を返した。それでも郵便屋は表情を変えず、相変わらずにっこりしていた。そしてそのことがますます真理子の勘にさわった。
「頭の良いお嬢さんですね。それなら話も早い。これは霊界列車の召集状です。ちゃんとあなたの席も書いてありますので、必ず来て下さいね。それでは」
郵便屋はそう言って、真理子に紙切れを渡そうとした。しかし真理子には郵便屋の言うことが理解できなかった。
「ちょっと待って。あたしはいろいろ分からないことだらけなの。ここはドコ?霊界列車って何?あたしはあなたが言うように頭がいいつもりよ。でも今のあたしの状況、さっぱり分からないわ。それが分からないと、今すぐ行くなんてこと、絶対にできないから!」
郵便屋が悪いというわけではなかったが、万が一にでも今の状況を説明してくれそうな者が目の前の郵便屋であり、仮に郵便屋が何も知らないとしても、真理子は郵便屋に説明義務を与えるような口調でまくし立てた。
「ここは霊界ですよ。あなたは死んでいるんです。ご存知ありませんでしたか?」
郵便屋は思ったよりもあっさりと、そう答えた。
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