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伏せられた顔を上げれば、亘は全くの別人に成り代わっていた。
目の奥で鈍く光るそれが、"亘"という存在ではないコトを物語っている。
ほんの少し潤んだ目、薄く開かれた唇。
小学生、ましてや五年の男子だとは思えない、余りにも妖しく、妖艶な存在―。
"ミタニ ワタル"がそこにいた。
『―ミツル、久しぶり』
"ワタル"が口を開く。
『…ああ。そう、だな』
ミツルは少々口ごもりながらも答える…ワタルに魅せられた。
『ねぇ、覚えてる?ボク達の"約束"』
『もちろん。忘れてない…だから今、オレは来たんだろ?亘には悪いけど』
『しばらくの間、ね』
ワタルがにこりと微笑むと、ミツルはワタルの唇にひとつ、口付けを落とした。
―甘い甘い、フレンチキス。
光は影に掠われた。
光はあてどなくさ迷う。
(光を受け止められるモノは、未だ目覚めず)
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