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「ねぇヤエちゃんは誰が好きなの?」
みっちゃんが寝転がったまま私にたずねた。
私はドキッとしたがフローリングの感触を手で楽しみながら目をとじた。
「いないよ。」
私の瞼の裏にはしっかりと少年の姿が映し出されていた。
その男の子はグランドで土を蹴るように走っていた。
「おい、磯村」
不意に横から声がした
磯村とは私の名前。
「何、三崎くん…。」
三崎とは
さっきまでグラウンドをかけていた男の子の名前。
私は教室で椅子に座りながら目の前に立つ
三崎くんを見ていた。
「はい、これ」
三崎くんは何か手に握り締めていたものを私の手のひらに置いた。
自分の手のひらを見ると。
ちびたピンクの消ゴムがコロンと乗っていた。
「お前、この前落としたろ見付けたから拾ってやったぞ」
ありがとうと言うか言わないかのタイミングで三崎くんは走っていってしまった。
「こら、三崎廊下は走るな!」
先生に怒られた声も聞こえる。
私はクスリと笑ったが、まだ三崎くんの温もりであたたかな消ゴムをそっと握り締めた…。
「ヤエちゃんは好きな人がいないんだ~。」
みっちゃんの声で現実に引き戻される。
「私はね、三崎くんが好き」
みっちゃんは天井を見ながらそう言った。
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