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訳が分からない、と困惑した表情を浮かべていたライルだが、考えるよりも行動派の彼は一歩踏み出した。
何か、ある。
そんな予感で胸がざわつく。
好奇心に満ちた瞳で鳥を追い、見失わないように駆け足で後を追い始めた。
「はや……っ」
だが、ライルはいつもに増して更に道なき道を進んでいる為に、鳥に着いていくことに苦労していた。
ライルを先導する鳥はとても賢いらしい。彼が少しでも通り易いよう、道を選びながら飛んでいる。ただ、ライルにはそのことに感心する余裕はなかったのだが。
そして、無造作に伸びる背の高い草々を掻き分けたとき。ライルの遥か前方を飛んでいた鳥がひとつ鳴いて、その場をぐるぐると旋回し始めた。
そこに何かあると分かったライルは、慌てたように走り出そうとするが、
「――うわっ!?」
落ちた。
ライルが踏み出した足は宙を踏み、そのまま下へと。転がるようにして受け身を取るが、残念なことに地面に強か頭を強打した。
およそ二、三メートル程の段差があったのだが、茂った草木で隠れてしまい、ライルは気が付けなかったようだ。
何とも情けない格好で、ライルは呻いた。鈍い痛みに頭を抱える。
「いってえ……こんなとこに、段差なんかあんのかよ……」
顔を苦痛に歪めながら、ぶつけた頭部を擦りつつ立ち上がった。ゆっくりと視線を前方へと移す。
目の前には小さな泉が。
泉は川に繋がっているようだ。川の流れ自体は速いのだが、泉の中では緩やかに水面(みなも)が揺れている。
「こんなとこに泉なんかあったのか……」
ぱちくりと瞬くライル。やはりこちらは未開の土地であるらしい。日を浴びて輝く水面の美しさに嘆息した。けれど。
鳥と、人影が。
瞳に映り込んだそれらに、ライルが不審に思って近付くと、鳥の方は勢い良く飛び立っていった。
途端に開けた視界。
そこには、見慣れぬ少女が一人岩にもたれて眠っていた。
腰まで真っ直ぐに伸びる、青みがかった艶やかな銀髪。雪のように白く、陶器のように滑らかな肌。閉じられた睫毛は長い銀色で、桃色の唇は微かに吐息を漏らす。
正に「天使」という表現がぴたりと合致する、儚げな美少女が、そこに居た。
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