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勿論、幾ら外れの街だと言えども、彼らは学校に通わなくてはならないわけで。ライルは三年目に差し掛かるところである。
「はあ、めんどくせえ……」
彼の態度や呟きにはやる気がないが、その割には手際良く本を片付けている。
ライルの家の書庫には最近の本よりも祖父の趣味で古書が多い。その為、ライルは訓練学校に通ってはいるが、祖父に毎日学問を叩き込まれているのだ。但し、それが彼の身になっているのかどうかは別として。
「よし、終わった!」
ライルはひとつ伸びをすると、祖父に持ってくるようにと言われていた本を抱えた。抱えた本はずっしりと重く前が見えない程積み上げられていたが、そこは訓練学校で鍛えているのだろう、軽々と持ち上げると扉を開けた。
「ここに本置いとくぞー」
書庫から出てすぐにあるテーブルの上に投げ出すように本を置くと、黒革のショルダーバッグを肩に掛け、剣を腰のベルトに差し込んだ。準備万端である。
「んじゃ、行ってくる」
リビングの奥の部屋から小さい返事がしたのだが、ライルはそれが聞こえない間に玄関を開け、そのまま出掛けて行った。
家から街までは、歩けばおよそ一時間弱かかる。その為、ライルは近道且つ最短距離である、所謂獣道を進み始める。彼の慣れた様子を見る限り、これはもう習慣化しているようだった。
「――ん?」
暫く進んだのち、ライルはその場に立ち止まると、怪訝そうに辺りを見渡した。考え込むように首を捻る。
「何で今日は動物が一匹も居ねえんだ?」
思わず疑問を口に出していた。山に居るはずの動物たちが見当たらないのだ。鳴き声さえしない。普段なら寄ってくる鳥さえも居ないのは、どう考えても変だろう。
「……こっちか?」
不審に思ったライルがもう一度周りを見回すと、その先で僅かに生き物の気配を感じた。これも訓練の賜物か。彼は迷わずそちらに向かって踏み出した。
だが、歩き出してすぐに心が折れかけた。
「なんっ、だよこの道……!」
獣道すらない、全くの未開の地であった。
それでも何とか草木を無理矢理に掻き分け進んで行くと、向こう側から一羽の鳥がやってくる。鳥はライルの側に近寄り、甲高い鳴き声を上げて頭の回りを旋回し始めた。
鳥は散々ライルの気を引いたのち、こっちに来て、とでも言うかのように、己がやってきた方へ向かって再度翼を羽ばたかせる。
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