-序章-

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彼女は定時制の学校に通っている為、昼間働き、俺は昼間は時々サボるが、大学に行き、働くのはもっぱら夜だ。 そのため、バイトの時間が重なる事は殆ど無く、彼女と知り合ったのは俺がバイトを始めてから二ヶ月後の事。 俺の大学のツレで、俺より四年程前からバイトをやっている、 水角三明(ミスミミツアキ) と昼飯を食べる為、普段行かない昼間の時間にバイト先に行った時だった。 俺がバイト先に着いた時、事務所に三明の姿は無く、まだバイト中で、そこに居たのが静香だった。 人見知りの激しい俺と静香。 もちろん会話は無く、俺が事務所に入った時に交わした挨拶だけ。 しかも、彼女は俯きお辞儀をしただけ。 狭い部屋に二人。 会話の無いままどんどん空気が重くなる。 バイトのスケジュールを確認する静香、煙草に火を着ける俺。 「煙草、吸うんですね。」 初めて聞いた彼女の声。 弱々しく、風でも吹けばかき消されそうなか細い声。 それでいて、何処か癒される心地よい声。 「ごめん。煙草嫌いだった?」 俺は慌てて煙草を消し、彼女の方に行かないように、残った煙を手で仰いだ。 「ごめんなさい・・・せんな・・・平気です・・・吸いそうに無い人・・・だと、思って。」 彼女は俯き、小刻みに震え一見泣いているかの様だった。 なかなか苦手な状況だ。 と、その時、事務所のドアが開き、バイトの休憩時間になった三明が現れた。 「何泣かせてんだよ。」 と、三明に言われ更に焦る俺。 そんな俺を余所に静香と話をする三明。 いつの間にか三人で飯を食いに行く事になり、それが始まりだった。 年の離れた人間との交流が皆無の俺にとって、彼女との出会いは新鮮で、他の人間に映るより、俺の目には彼女が可愛く映っていたのだと思う。 余り喋るのが得意ではないのだろうか、俺よりも更に人見知りが激しいのだろうか、頷いたり、首を横に振ったりして答えるのが、妙に気になる。 でも、食べ物を食べる時、すごく嬉しそうに、すごく美味しそうに食べる姿は取り分け可愛くおもえた。 数日後だが実際に彼女を可愛いという人間は少なくなく、バイト先でも、それなりの人気がある事を知った。 それからの俺は彼女に会うと嬉しく、どこか満たされた気持ちになり、会えるだけに、もどかしさを覚えるのに時間はかからなかった。
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