-序章-

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彼女が俺に望みを言う事が決して悪い事じゃないと知って貰う為にも。 辺りの店を見て綿菓子を探すがなかなか現れてくれない。 見落としてはいないかと時々後ろを振り返りながらさっきまでよりゆっくり歩く。 「ないね。」 残念そうな顔を浮かべ、例の癖を出す。 彼女は俺のその手を大事そうに抱え、指先を甘噛みする。 「それ綿菓子じゃない。食ってるやついたんだからちゃんと有るて。」 また一度だけ頷くとさっきまで噛んでいた指先をさすってくれる。 そんな仕草がたまらなく好きで、笑顔を隠せ無いでいると、妙に周りが気になってしまう。 笑ってしまう口元を隠して辺りを気にしてみると人混みの奥に綿菓子屋らしきものが見える。 「あったよ。」 嬉しそうに笑いながら俺のシャツをつかむ手を数回引っ張る。 これは彼女なりの 「早く行こ。」 の合図。 少しだけ早く歩くと必死に小走りで着いてくるのがなんだか可哀想で、またゆっくり歩きだす。 慣れない下駄での小走りはいくら長距離歩くのも平気な彼女でも負担がかかるだろう。 俺はいつも通りのGパン、Tシャツ、スニーカーだから全く問題は無いが彼女は浴衣に下駄。 「ゆっくり行こ。」 そう言いながら俺は自分の足をさする。 と彼女は心配そうに俺の足を見つめて、 「足痛い?」 「ちょっとね。」 黙って彼女は頷きゆっくりと俺の少し後ろを歩く。 足は痛くない。 ただ、彼女は人に迷惑をかける事が嫌いで、小さな事でも迷惑をかけてしまっていると思う事がある。 「下駄つらそうだからゆっくり歩こ。」 なんて言ったら、彼女は辛くても無理して 「平気。」 と言うだろうし、自分のせいで、なんて考えてしまう。 それは今までの経験で知っている。 良かれと思ってする気遣いが余計に彼女を悩ませるならそれはいらない。 人混みで思うように進めない分以外にゆっくりの方が動きやすい。 思っていたよりも早く店までたどり着いて、店の前で止まると、彼女は直ぐに買いにはいかず、周りに着けられた綿菓子を・・・というより、綿菓子の袋を見ている。 袋の絵柄で迷っているのだろう。 あまりテレビを見ない俺でも目にしたことのあるキャラクター達の絵柄が列んでいる。
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