-序章-

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辺りに人は殆どいなく、人混みから出れたのと、冷たいかき氷、彼女が隣に居てくれる事がとても心地良い。 こんな幸せにもいつか終わりが来てしまうのだろうかと、ふと考えてしまった自分に罪悪感を覚える。 二人並んでかき氷を食べる。 一見普通だか俺はそんな普通が好きで、その普通が以外に難しい。 空をみれば雲が薄くかかり、祭の明かりも有って星は殆ど見えない。 こんな時は賑わう町の明かりがやけに綺麗に見える。 「美味しい?」 今度は笑顔を見せて答える。 食べるのが遅い彼女は溶けない内にと、必死に食べていて、普段よりは減っている。 一気に口に入れると苦しくなるらしく、一口一口が極端に少ない。 別に小食という訳ではなく、どちらかと言えばよく食べる方で、長い時間をかけながら食べ続ける。 何でも美味しそうに食べる彼女は本当に嬉しそうで、きっと俺が料理人なら最高の客なのだろう。 そんなどうでも良いようなことを考えていると、彼女が俺の裾を引っ張り、かき氷のカップを見せる。 早く、といっても普通の人よりは遅いのだが、彼女の中では早く食べ終えれた事が嬉しいらしい。 彼女の頭を撫でてやると目を閉じしばらくそのままでいたが、彼女は急に立ち上がり、俺の方を向く。 その顔は今にも泣き出しそうで、全身を小刻みに震わせ、一瞬だけ俺を見て目が合わさるのを避ける様に俯く。 「静香?」 言い得様の無い不安が背筋からから全身を襲う。 今手を伸ばしても彼女に届かない。 避けられそうな気がする。 「静香?」 縦にも横にも首を振らず、自分で自分の手を強く握り、さっきまでより更に振るえ出す彼女。
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