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使われていない部屋に掃除機をかけていると、ふと誰かの視線を感じた。
護は思わずいつもの癖で自分の胸に手を当ててしまったが、そこには護を安心させるクロスはなかった。
(そうだ。外してきたの、忘れてた)
これもバイトをするに当たって、事前に言い渡されていた条件の一つだった。
(でも熱心な仏教徒だから、他の宗教を持ち込むな、それに関するグッズもって言うわりに、この家の中には仏像の一つもないんだよな…)
だから護はいつも首から下げているクロスを外してきた。
ないのは少し不安だが、護にはいつ、どんなときも、主が見守ってくれているという、篤い信仰心がある。
(あまり詮索するのはやめよう。とにかく、彼らがここを気にいって、ずっと住み続けてくれればいいんだから…)
護はまた床に掃除機を掛けることに専念した。
トントン。
ドアをノックししばらく待つと、中から朽木がドアを開けた。
「掃除は終わりました。何か他の仕事はありますか?」
「いや、特にない」
「でも契約した時間までまだ1時間ほどあります」
「だったら下で茶でも飲んでろ」
「そういうわけにはいきません」
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