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バスの車窓から見える空は、雲ひとつない快晴だった。梅雨が明けたとたん気温はぐんぐん上がり、道行く人たちは一様に、暑さにウンザリした表情だ。
しっかり冷房の効いた車内は快適で、清宮護は汗ひとつかいていない。
もっとも護はたとえこの炎天下の中、駅から自宅までの30分という距離を、「歩いて帰りなさい」と言われれば、顔色ひとつ変えずに「はい。それがあなたのお望みなら」と、笑顔で頷ける人間だ。
それがどんなに理不尽で、どんなに無駄なことであっても、護には神から与えられた試練なんだと、寛容に受け止めることができる。
学友たちはそんな護をいつか酷い目に遭うんじゃないかと心配してくれているが、護自身は至って呑気なものである。
学校を卒業したら、父親と同じ神父の道に就くことは決めてある。
富も名声も欲していない。ひたすら神の教えを守り、困っている人々の助けになれたらいい。
そんな欲のない人間に、神が非情過ぎる試練をお与えになるはずがない。
護はそう信じているのである。
稀にみるお人好しだ。
車窓から懐かしい我が家のシンボル、尖塔に掲げられた十字架が見えてきた。
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