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護は着替えを詰めたバッグを抱え、バスを降りた。バス停から自宅の教会までは徒歩数分。
降りたとたん、一気に上昇した気温の高さを感じたが、護は長袖のシャツの袖を捲り上げることも、第一ボタンまでしっかり留められた襟元を開け、風を入れるような真似もしなかった。
坂道を登る振動で、ずり落ちてくる眼鏡を時々直しながら、護は教会を目指した。
護は高校から特殊な学校で学んでいる。キリスト教の教えを重んじる、全寮制の学校だ。そのまま同じ大学に進み、神父になるための勉学に勤しんでいる。
夏休みを迎えたため、久しぶりの帰省となった。
教会の前庭は普段と変わらず綺麗に整えられており、花壇には名も知らぬ赤い小花が植えられていた。おそらく施設の子供たちが植えたものだろう。
教会の裏手には不幸な子供たちが生活している養護施設がある。護もそこで10歳まで生活していた。
祭壇前で無事に帰省できたことを神に感謝し、護は教会と養護施設の間にある、自宅の玄関ドアを開けた。
「ただいま」
沓脱ぎに見慣れぬサンダルがある。どうやら来客中のようだ。
護は応接室のドアをノックした。
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