はじめての経験

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(僕にできること、何かないのかな?)  常々そう思っていた。どうしても大学を卒業しなければならない理由はない。いつ辞めてもいいとさえ思ってる。 (お父さんときちんと話してみよう)  護は作り置きしてあった麦茶をグラスに注ぎ、ゆっくりと応接室に戻った。 「ですから困るんですよ。おたくと違ってウチは慈善事業じゃないんですから」  やはり懸念した通り、借金取りだった。  護はドアの前で、開けるべきかどうしようか迷った。父が護にお金の話をしないのは、そのことで心配をかけたくないからだ。 「あんな大きな息子さんがいるなんて、ちっとも知りませんでしたよ。息子さんに働いてもらったらどうです?」 「息子はまだ学生です。学ぶことが彼の本分です」 「今時東大生だってアルバイトくらいしてますよ」 「彼は優しいばかりで欲のない人間です。そんな彼に大金を頂けるような仕事が務まるとは思えません」  この返事には内心、がっかりした。  確かにお金を頂けるような仕事をしたことはないが、順応性も柔軟性も、人並みの知識だってある。体は健康だし、肉体労働だってやろうと思えばできるつもりだ。
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