518人が本棚に入れています
本棚に追加
(僕にできること、何かないのかな?)
常々そう思っていた。どうしても大学を卒業しなければならない理由はない。いつ辞めてもいいとさえ思ってる。
(お父さんときちんと話してみよう)
護は作り置きしてあった麦茶をグラスに注ぎ、ゆっくりと応接室に戻った。
「ですから困るんですよ。おたくと違ってウチは慈善事業じゃないんですから」
やはり懸念した通り、借金取りだった。
護はドアの前で、開けるべきかどうしようか迷った。父が護にお金の話をしないのは、そのことで心配をかけたくないからだ。
「あんな大きな息子さんがいるなんて、ちっとも知りませんでしたよ。息子さんに働いてもらったらどうです?」
「息子はまだ学生です。学ぶことが彼の本分です」
「今時東大生だってアルバイトくらいしてますよ」
「彼は優しいばかりで欲のない人間です。そんな彼に大金を頂けるような仕事が務まるとは思えません」
この返事には内心、がっかりした。
確かにお金を頂けるような仕事をしたことはないが、順応性も柔軟性も、人並みの知識だってある。体は健康だし、肉体労働だってやろうと思えばできるつもりだ。
最初のコメントを投稿しよう!