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「心配?」
「その借りてくれた人なんですがね、気に入ったら買い取っても構わないとまで言ってましてね。うちとしては、こんないいチャンスはない。是非買い取って頂きたい。でもはっきり言ってあの屋敷は古いし、夜中に物音がするだの、変な影が見えただのよくない噂が絶えなかった。いつでていかれてもおかしくない。だからね、うちの方で家政婦を斡旋して、そんな気配があったらすぐに知らせて貰うつもりだったんだ。それがダメとなるとね…。一年分の前金、返さなきゃならない」
「お返ししたらいいのでは?」
「うちだって色々事情があんですよ。困ってるのは何も神父さんばかりじゃない」
「…左様ですか」
「どうです? 夏休みの間だけでも、息子さんにハウスキーパーとして、偵察して貰えませんかね? 引き受けてもらえたら、養護施設の立ち退きの件、考えさせてもらってもいい」
立ち退きの言葉にお盆を持った護の手に力がこもった。
お世話になった施設がなくなるかもしれない。あそこには今だって不幸な子供たちがいる。彼らは一体、どこで暮らせばいいのか。
「もしあの屋敷が買い取ってもらえたなら、立ち退きの件は白紙に…」
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