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「まあね、確かに」
「…逃げ場を、残しておいてやりたいんだ。あいつはまだ若い。今はのぼせているだけかもしれない。普通の男として、生きる道を残しておいてやりたいんだ」
「お前、辛くないの?」
「あいつにへこまれる方が、もっと辛い」
「…体調、悪いのか?」
「いや、ただの過労だ」
「あまり、無理するな。…これからだろ?」
「そうだな」
「少し休んだらどうだ? 有給、溜まってんだろ?」
「有給か…、そうか、その手があったな」
「たまにはさ、息抜きも必要だよ」
「お前は息抜きしかしてないだろうが!」
「それで家庭円満なら問題ないじゃない」
「いつかお前のカミサンに告ってやる」
「多分信じないね」
「ほんと、お前なんかにはもったいない、できた人だよな」
「だよね。おれもそう思う」
一頻り笑って、大澤は残りの仕事を片づけた。
夜中近くに部屋に戻ると、焼き鮭と出汁巻きがテーブルに用意されていた。
『おかえり。お茶漬けくらいなら食べられそう?今夜は自分の部屋で寝るから、ゆっくり休んで』
残されたメモを手に大澤は思った。
あいつもおれなんかには、もったいないよな、と。
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