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「ただいま」
玄関ドアが開いた時、ちょうど潤は焼きあがったばかりのサバの塩焼きを、皿に盛り付けたところだった。
「焼き魚の匂いがする」
そう言いながらキッチンへ現れた男は、すぐに冷蔵庫へと向かった。
「手ぐらい洗えよ」
「病院で洗った」
「帰ったらうがい手洗いは感染予防の基本だろ? 医者のくせに、だらしないんだからな…」
潤が軽く睨み付けると、男はぼさぼさの髪をかきむしりながら「お前はいちいち細かいんだよ」と、構わずビールを取り出した。
いい加減床屋に行けと先週から注意してるのに、まったくいうことを聞かない。
そんなだらしない男、大澤と付き合い始めて早2ヶ月。同じ職場で医師と看護師をしている二人は、毎日一緒にいられて、さぞやらぶらぶな日々を送っているんだろうと思われるかも知れないが、実はそうでもない。
勤務する病棟が違うし、お互い夜勤もある。基本的に土日が休みの大澤と違って、潤が土日とも休めることは月に一回あるかないかだ。
だから会うのは大抵夜で、それも潤が大澤の部屋へ行くのが当たり前になってしまっていた。
無精者の大澤は掃除も料理もしないからだ。
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