エクソシスト…白百合のシャルル

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エクソシスト…白百合のシャルル

ここの建物の主、修道院長:マティーニ大司教への挨拶をしようと、着いたばかりのウィルヘルムが、大教会の聖堂に一歩左足の爪先を入れた瞬間、 「…だから、ウィルヘルム修道僧が、危険人物だとおっしゃるのか」 ウィルヘルムはゴクンと生唾を飲み込んで、少年のすぐ右手にあった礼拝堂の聖人マタイ像の影に、急いで隠れた。 「その通り、マティーニ大司教」 あいつだ!ウィルヘルムは、マタイの足元から、真っ白い男の姿を確認した。エクソシスト…シャルルが、マティーニ大司教に僕のことを告げ口している。 「悪魔の子…マティーニ大司教様、ほんの一昔前にパリ一番の美人と言われたかの魔女マリアが、悪魔の術師とまぐわり、女の胎内で生まれ育ったその黒い子山羊は…悪魔払いにより亡き者になったことにされていた…」 「違うのか、シャルル殿?」 「はぁ…身内の失態を晒す覚悟で申し上げる。実は、我が師ネロは、悪魔の子に憐憫を感じた為か、田舎の教会に棄てたらしい」 堂の外から、廊下へ…第三者がマタイ像に慌ただしく近付く、石畳に響き渡る足音が少年修道僧の胸を突き抜ける。ウィルヘルムは、祈るような気持ちで、瞼を閉じた。どうか…見つかりませんように、シャルルに見つかったら、僕は… 「マティーニ大司教様!ミッチェル・ド・ジュアン侯爵様が少し話があると…告白したい罪があるようで」 シャルルとマティーニ大司教は、ウィルヘルムの話を一端切り上げると客人の対応へと急いで消えた。少年修道僧は、ようやく銀色の月光を浴びながら礼拝堂を歩き出した。 ミッチェル・ド・ジュアン侯爵、彼はウィルヘルムの(少し大袈裟な表現だが)パリでの命の恩人であった。ジュアン侯爵は何をしにきたのだろう…考えてみようとしたが、ウィルヘルムはすでに疲れてマリア様の微笑みにいだかれ、緩やかな眠りに落ちてゆく所だった。少年が彼の巡礼目的を知るのは、翌朝のことである。 無惨な最期の姿で絶命したマティーニ大司教と、瀕死のシャルルが修道院長である大司教の個室で発見されたのは、翌朝、ウィルヘルムがまどろんでいた時だった。
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