序章 旅立ち

3/16
474人が本棚に入れています
本棚に追加
/291ページ
親が敷いた将来のレールを、はみ出さずにこれから先もずっと生きていく。 それは、当たり前のように。 選択の余地も、ない。 真由はわかっていても、きっと逆らうことも出来ずに生きていくんだと思っていた。 * 真由は、都内でも有名な私立の名門女子校に通っている。親友と呼べるような特定の友達もいなくて、学校が終わればピアノの講師の自宅に通い、ひたすらピアノを練習する毎日を過ごしていた。 でも、いつからだろう。 そんな毎日に、嫌気がさしてきたのは。 ピアノを弾くことが、息苦しく感じ始めたのは……。 このまま生きていって、恋を知らずに、親が決めた相手と結婚して、子供を作って…。 でも、それで私は幸せなのだろうか。 真由は、そんなことを毎日考えていた。 タカシと出会ったのは、高校3年の桜の花が散り尽くして新緑の葉をつけ始めた頃。 真由は、駅前の本屋にいた。 ふと、風景の写真集に目がついて、その写真集を手に取ってみた。それは海外のもので、ヨーロッパを中心とした景色の写真集のようだ。 煉瓦を敷き詰めた歩道。 古い街夜灯。 ノスタルジックな町並み。 山間にある古城。 豪邸のような駅。 真由はうっとりと写真集を見つめていた。そこに突然隣から黒いエプロンをした若い男が、真由の顔を覗きこんできた。 「きみ、海外に興味があるの?それとも、写真?」
/291ページ

最初のコメントを投稿しよう!