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親が敷いた将来のレールを、はみ出さずにこれから先もずっと生きていく。
それは、当たり前のように。
選択の余地も、ない。
真由はわかっていても、きっと逆らうことも出来ずに生きていくんだと思っていた。
*
真由は、都内でも有名な私立の名門女子校に通っている。親友と呼べるような特定の友達もいなくて、学校が終わればピアノの講師の自宅に通い、ひたすらピアノを練習する毎日を過ごしていた。
でも、いつからだろう。
そんな毎日に、嫌気がさしてきたのは。
ピアノを弾くことが、息苦しく感じ始めたのは……。
このまま生きていって、恋を知らずに、親が決めた相手と結婚して、子供を作って…。
でも、それで私は幸せなのだろうか。
真由は、そんなことを毎日考えていた。
タカシと出会ったのは、高校3年の桜の花が散り尽くして新緑の葉をつけ始めた頃。
真由は、駅前の本屋にいた。
ふと、風景の写真集に目がついて、その写真集を手に取ってみた。それは海外のもので、ヨーロッパを中心とした景色の写真集のようだ。
煉瓦を敷き詰めた歩道。
古い街夜灯。
ノスタルジックな町並み。
山間にある古城。
豪邸のような駅。
真由はうっとりと写真集を見つめていた。そこに突然隣から黒いエプロンをした若い男が、真由の顔を覗きこんできた。
「きみ、海外に興味があるの?それとも、写真?」
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