三崎 栄司

2/45
前へ
/699ページ
次へ
 日本の関東に位置する一つの街。  名を『平柄市』という。  人口は八十万を越え、比較的栄えている大規模な街だが、首都ほど巨大な建物が立ち並んでいるわけではない。  様々な“色”が点々と存在し、混じり合うキャンパスのような街だ。  ある地域は、ビルが建ち並び、人々が賑わう場所――灰色。  ある地域は、清い水が流れている川や、鳥のさえずりが聞こえてくる森など、自然が豊かで心休まる平穏な場所――青色、緑色。  地形が穏やかであり、全面的に平ら。その為に人々が在住しやすく、街の至る所に居住区が設けられている。山々のような凹凸は北の方角にほんの少しある程度だ。  街は東の方角に一つ、西の方角に一つ流れている大きな河に挟まれ、南の方角は海に面している。その為、他の街との境がはっきりしている特徴がある。  周りの市との境は、その二つ河を基準にして分けられており、他の市との繋がりのため河を架ける大きな橋も多い。日々数え切れない数の自動車や鉄道が境を行き来して、情報を運んでいき、または運んでくる。  もともと経済的に環境が良いため、平柄市はこれまで栄えてきた。  沢山の色を維持し、そして組み込み、付け加えてきた。  人々がこの街を“生きる場所”として栄え、  そして、この街自体も人々によって“生かされていた”。  バランスが保たれていたのだ。  均衡的に、合理的に、平和的に、平穏的に。  この街は生命の呼吸を繰り返し、“生きていた”。  そんな街の、寒さに身を震わすような冬のある日に、  何気ない、  いつも通りに均衡的で、  合理的で、  平和的で、  平穏的になるはずだったその日に、       “事”は起きた。  
/699ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1047人が本棚に入れています
本棚に追加