三崎 栄司

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*** 「栄司」  朝の会が終わり、教室を出ていく先生の背中を見届けた後、矢部が音楽の教科書を両手に持ちながら机の前に立っていた。 「移動教室だから早く行こーぜよ」 「おお、わかった」 「……なあ。なんでお前ってさ、いつもそんな眠そうな顔してんの? 低血圧なんすか?」  前にも言わなかったっけ? 「深夜、サッカーの試合とか観てるから。今日のはちょっとウイイレのやりすぎだけど」 「ふ~ん…ほんとにそれだけかぁ?」  矢部は細い目をして俺の顔を覗き込む。 「うん」 「即答かよ」 「そんな……エロい物観るの、お前みたいなスケベで、ちょっと大人の階段昇っちゃおうかなーっとか思ってる奴だけだろ」 「いや、違う。俺はフルオープンだぜっ! フルが大事っ」  胸を張って謎の宣言をする矢部。大声で叫ばれたものだから、当然矢部に視線が注がれ、ついでに俺にも妙な視線を送られる。  正直なところ殴りたかった。  だが、俺は矢部の先を歩く。  一刻も早くこいつから離れたかった。 「あっ、ごめっ、うそうそ! ガチで待って、栄司クン!」  苦笑いしながら矢部が追いかけてきた。  ……あ、そういや。  こいつの彼女の話聞いてなかったな。 「あのさ、あの話ー…」 「へ?  ……あー! あれだな! え、聞きたい? 聞きたいんすか? おけ、わかった! 栄司だからな! おっと、周囲確認! 異常なーし! ……実はなぁ……」  矢部がうれしそうな顔で話し始めた。  矢部の顔はいつもより輝いていて、見ている自分も嫌な気分じゃなかった。  そんな俺は相づちを打ち、驚きながら話を聞いていた。  移動の際、ふと窓から、外の景色が見えた。  澄み切った青色の海と、所々に浮かぶ白い雲の島。  ……綺麗な青空だな、なんか久々に見たかも、と心の内で思った。  肩を叩かれる。 「栄司?」 「お、わり」  まあ――青空なんてどうでもいい。  どんなに青かろうが、赤かろうが、俺の人生は変わらない。  いや、人生について語る年じゃねーだろ、俺。 ***  思えば、あの青く蒼く澄み切りに澄み切ったあの空こそが、予兆というか、伏線だったのかもしれない。 ***
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