三崎 栄司

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***  淡々と一時間目、二時間目と過ぎていき、残るは帰りのHLだけとなっていた。 「栄司ぃ~」  席に呆けて座っていた俺に、矢部が笑顔で話しかけてきた。  常に笑っていやがるこいつ。 「なんだよ、さっきのプリントなら、俺もやってねえぞ」 「ふん、アホウが。それならもう別の奴に見せてもらったワ。つか、お前もやってなかったのかよ? あー、どうせ妄想でもしてたんだな、そうだろ」 「だから、何だよ」 「あー……実はデスネ、今日は由香ちゃんと一緒に帰るからさぁ、栄司とは今日は帰れねえんだよ。わりィなっ」  にやけながら「ごめん」のポーズを取る矢部。詫びているけど、詫びてないように窺える。 「わかった。つか、お前部活は?」 「今日は無し」 「なんで」 「サッカー部がグラウンド全体で試合するらしいからな。野球部は退いてろって感じ」 「ふぅん」  すると、矢部がいきなり腕で顔を抑え始めた。 「……にしてもよ……とうとう俺は……やったんだ……この時をどんだけ待ち望んだか……」  矢部の泣く真似。見慣れたものだ。  しかし、今回は僅かに本気を感じさせた泣き真似だった。  まあどうでもいいけど。 「お前、遊ばれてるんじゃないの?」  さり気なく、冗談混じりに訊いてみる。  すると、先ほどまで泣き真似をしていた矢部が急に両手で机をバンと叩き、目を見開かせて俺の顔を覗いてきた。 「!? バッ、バカやろ! んなこと……………………」  ちょっと矢部は本気にとらえてしまったようだった。申し訳ない感じが巡った。 「う、うそだようそ。本気にすんなよ」 「……うそでも言うなよな」  今の点には触れないようにしよう。  すると、教室に設置されているスピーカから電子音で作られたチャイムが放たれた。  教室、廊下に響き渡り、生徒たちの耳に届く。  それを聞くと矢部は顔をこちらに向け、右手を軽く挙げ「んちゃ」と席に戻っていった。  帰りの会の始まりだ。  ふと矢部を見ると、周りに悟られないように、俯きながらニコニコと笑っていた。先ほどの不安はもうどこかに飛んでいってしまったらしい。……ある意味羨ましい。  しかし、本当に嬉しいようだった。  俺も思わず笑みが零れた。
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