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「いや、学者とかではないんですよ」
空楽さんは、笑いながら否定した。
「学者ではない? で、でも、助手と……」
「私はですね。探偵とやらをやっているんですよ」
「た――探偵、ですか?」
三代さんは、それでも訳がわからない様だった。
探偵。
どうもこの職業は、名前は猫でも知っていると言うのに、現実味が極端に低い職業だ。
ホームズやらポワロに金田一など、そういう小説。
いわゆる『名探偵』と言うものが日常的に意識に刷り込まれているらしく、架空の職業。殺し屋やスパイなど、あの辺りに位置付けられてしまう事が多い。
その上、今時に助手付きの探偵とくれば、それはわからなくて当然だろう。
三代さんの反応は、当たり前と言える。
たとえ名張空楽が名探偵じゃなくとも。
「探偵は探偵ですよ。ご存知ですよね?」
「あ、あの、えっと――あの、探偵ですよね」
「そう、あの探偵です」
空楽さんが、強引とも言えるくらいに話しを進めた。
あの探偵では、普通は通じないだろう。
ただでさえ、『名』が付くか付かないで大分違うと言うのに。
「――と言う事は、何か事件ですか? いや、素晴らしく素晴らしいですね」
安藤さんが、期待する様に言った。
早速、なにやら良からぬ誤解を招いている。
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