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確かに、形間さんに気を遣ったのもあるかもしれないが、半分は意地の様なものだ。
あの人に対する意地。
「私は仕事に戻ります。飲み終わったカップは片付けますので、そのままにして貰って結構です」
来々さんは、そう言うと僕に背を向けドアに向かった。
「あの――」
「はい?」
僕が呼び止めると、微笑みながら来々さんが振り返った。
「空楽さん見ませんでした?」
「……ああ。先程、一階の廊下で見かけましたが」
人差し指を唇にあて少し考えた後、そう答えが返ってきた。
「では、私は失礼します」
音を立ててドアが閉まった。
僕は、紅茶を口に含みながら考える。
あの人は、一体何をしているんだ? 人に荷物を運ばせてふらふらと。
巻き込まれた形の僕としては、不満としか言いようがないけれど。
そうだ、不満だ。
あの人の中途半端さには、本当に不満足だ。
「やあ、私を呼んだかな?」
――と、そんな風に人を刺激する様な口調で、その人は登場した。
名張空楽――探偵である。
いや、正直認めたくないけれど、助手である僕が全面的に否定する訳にもいかないだろう。
しかし、探偵と表現するべきなのだろうか?
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