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私鉄駅から徒歩10分。そこは二階建てのごく普通の一戸建てだった。
叶野京介は朝食を作る手を一旦休めて、キッチンの脇にある窓を開ける。
僅かに湿気を含んだ風が室内に入ってくる。その後、見えてきたのは澄み渡った綺麗な青空。
「よし、いい感じだ」
小さくガッツポーズ。
ここ最近降り続いた雨はようやく上がったらしい。見事な洗濯日よりだ。
これでたまった洗濯物もようやく干すことができるだろう。一部、部屋干しにしたのもあったが……やっぱり洗濯物は外で干すのが一番だ。繊維も気分もすっきりする。
ちょっとだけ感動した後で、再び朝食作りに視線を戻す。
カリカリに焼けたベーコンエッグを皿に移したところで、セットしておいたトースターがパンを吐き出す。軽くバターを塗って、コップにミルクを注いで準備完了。
テーブルに並べ、椅子に座る。
気分のいい朝は朝食も一段とおいしそうに見えるから不思議だ。
京介は律義に手を合わせて――
「いただきま……」
ジリリリリ、リ……ガツンッ!……
「っ…………」
――リビングの天井、二階から聞こえてきた異様な音に、口を開きかけたまま一時停止。
……そうだった。まだやることがあったな……。
思い出して「はぁ……」と一つため息をつく。
アツアツな朝食をほうばることなく、京介の口は虚しく閉じられた。
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