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バスが赤信号で停止した辺りでやっと釈放された僕は、顔が歪んでいないか確認しつつ、窓の外を眺める。
見ると、ちょうど僕と奈央の席からしか見えないだろう、人の視界に入りづらいビルの裏で、ガラの悪そうな三人の人間が、ランドセルを背負った白いワンピース姿の小さな少女を囲んで何やら騒いでいた。
「何してんだろ?」
「ナンパ」
背中に体重を乗せながら奈央が即答する。
「いや、自分から訊いといてアレだけどチンピラさん達のオーラから殺意を感じるんですが」
「ば、バカな…戦闘力2…3…4…まだ上昇している!?」
「それ大して驚異じゃないよね?」
他人事のような会話をしながら、その光景を見つめる。
少女は、俯いたまま黙っているようだ。
バスはすぐに動き出し、彼らは視界から消えてしまった。
▼
バスを下車し横断歩道を渡ると、そこには私立盟欄学園の校門があり、そこをくぐれば広大なグラウンド、奥へ進めば複雑な造りをしたドデカい校舎が待ちかまえている。
丁度今年で創立八十年を誇るこの盟欄学園は、この十並市の象徴とも言える存在だ。
新しい教室に向かう廊下、首の後ろに奈央が腕を絡ませてくる。
ラブコメならばここで「む、胸が当たって…」なんておいしい展開になりそうなものだが、もちろんそんな展開もなければ、コイツには胸もなかった。
「くーちゃんと11年間同じクラスだね。これって運命だよ?抗えないよ?私たちは結ばれるんだよ?」
「奈央ルート直行!?爽やかな新学期に回避不能な死亡フラグをたてないでよ!」
「照れてる?」
「奈央の目は節穴にドリルでも突っ込んだの!?」
「………うん、内緒だヨ?」
頬を赤く染めてもじもじする奈央。
見た目はそこそこ可愛いのだが、中身がこれなので全く魅力を感じない。
つい素直な感想が漏れる。
「キモ」
「嫌よ嫌でも好きになれ、って言葉知らないの?」
「知らないよ!それこっちに選択肢ないじゃん!」
僕たちの騒ぎを若干退いて眺める新入生の視線が痛い。
健介が律儀にフォローしようと笑顔で新入生に近づいていくが、彼らにはその笑顔からカツアゲや脅迫などをされると思ったらしい。
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