Chapter1

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怯えた表情で逃げ出す者もいれば、綺麗ではないタイルの上に土下座してサイフを差し出す者もいた。 「健介……」 ガックリと肩を落とし、ヨロヨロと戻ってくる健介。 心底悲しそうな顔をしているが、僕らのような知り合いでなければ殺意満々に見えるだろう。 ちなみに健介とも小学校からずっと同じクラスなのだが、奈央の記憶ベースにそのような情報は存在しないようだ。 「…ケンちゃんはキモ怖いいんだから一年に近づいちゃだめだよ?」 あながち間違っていない奈央の指摘に、ついに健介は半泣きになった。 「…お前がいうか?お前がイタいキャラとして扱われるのを軽減しようと頑張るこの俺の努力は何なんだ?」 結果、健介が一番イタいキャラになっているのだが、さすがに正直者である僕にもそれは言えなかった…。 ▼ ホームルーム終了後の席替えの結果、一番後ろの窓側になった。 奈央は前の方にある廊下側の席、これなら今年は集中して授業が受けられるだろう。 …生け贄として奈央の隣になった健介には可哀想だけど。 そういう僕の隣の席は、空席のままだ。 担任の話によると転校生が来る予定だったらしいが、都合で明日からの転入になるそうだ。 正直なところ知らない転校生と会話するのは嫌だが、クラス替えをした直後であるこの時期、ほとんどが面識のない人間だ…まあいいか。 ぼんやりそんなことを考えながら見渡した教室は、健介の鼻ピアスに興味を持った奈央がそれをひっぱり、断末魔の悲鳴を上げる健介、そしてそれを見守るクラスメート達の大爆笑に包まれていた。 一瞬、助けを求める健介と視線が合ったのは絶対に気のせいだ。うん。 窓から見上げた空は、そんな日常を祝福するようにどこまでも蒼く澄んでいた。 …そう。 このいつも通りの日常が、今日で失われるということを、何も知らないかのように…。
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