Chapter1

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そんな事件の後だから、余計姉貴は心配してくる。 「ホント、気をつけてよね?もしも祐が裏路地で悪い女に襲われて、『心もカラダも汚されて身ぐるみ全部はがされて絶望した末に高層ビルの屋上から全裸で飛び降り自殺』みたいになったら私は泣くからね!!」 「どんなシチュエーションだよ!?」 小さなマンションのリビングに姉貴と二人、テーブルで夕食をとりながらその日あった何でもない出来事を話し合ったり、今みたいに姉貴が暴走したり、僕にとって当たり前の光景。 だから、夕食後にいつも通り頼まれたコンビニへのおつかいが、まさか非日常へ足を踏み入れる第一歩であることなど、気づけるはずもなかった。 ▼ 自宅から15分ほど歩いて住宅街を抜けた先に、一軒のコンビニがある。 夜の散歩ついでのおつかい、僕はコンビニ袋を提げながら、店から出てきた。 店員の「ありがとうございましたー」の声とともに、春先の、まだ少し冷たい夜風が頬を撫でる。 軽く目を閉じ、しばらくその心地よい風を堪能した。 「う~…やっぱり夜の散歩は最高だ」 素直な感想を一人呟き、そして一言付け加える。 「これさえなければ…」  お気に入りの黒いジャケットの上から、胸の辺りを触る。 内ポケットには、姉貴から強制的に持たされた護身用スタンガンが入っていた。 「何でこんな物騒なモンを持ち歩きながら散歩してんだろ…?てかそれ以前に、どうしてスタンガンなんか持ってんだ姉貴は…」 問い詰めてた所で、「だって、祐にもしものことがあったら、私、私…」と泣き崩れる(リアルで)に違いない。 …困ったもんだ。 軽くため息をつきながら、月の光が照らす薄暗い道をのんびりと歩いていった。
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