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数分後、たくさんの車が行き交う大通りの歩道橋に僕はいた。
手すりに寄りかかる。ビュンビュン車が通る車道を見下ろしながら、ここから落ちたら何回車に跳ねられるかな、なんて思う。
そんなくだらないことを考えながら、幅の狭い歩道橋を進もうとして、ふと後ろに気配を感じた。
振り返ったそこには、小学校低学年くらいの小さな女の子がぼんやりと立っていた。
…こんな時間に塾か何かだろうか?
ワンピース姿の女の子は、虚ろな瞳で僕を見ている。
ん…どこかで会ったような…それもつい最近…?
と、今朝の光景を思い出す。
あのとき、チンピラ風の若者に絡まれていた白いワンピースの女の子だ。
ただ…記憶と違うのは、彼女が着ているワンピースの色が白ではなく、ベージュのような…いや、どちらかといえば赤黒い色だった。
ツンと、鉄の錆びたような匂いがした。
『危険ダ』
理由は分からないが、漠然と思った。
本能が危険信号を発っしている。
『コノコハ危ナイ』
心臓が早鐘を打ったように、ドクン、ドクンと響く。
突然、女の子は俊敏な動作で僕へ手をのばしてきた。
「うわっ!?」
反射的に後ろへ跳ぶ。
空振りした少女はよろけ、歩道橋の手すりに捕まり、
ゴキャッ
その掴んだ部分を握り潰した。
「えっ…」
口をポカンとあける。
状況が理解できない、目の前の出来事に脳がついていかない。
女の子の手から、鉄くずと化した物体がキン、キン、と音を立てて転がり落ち、彼女は何でもなかったかのようにこちらに向き直る。
「あ…」
目が合う。
その表情は年相応の女の子の顔だが、やはりどこか虚ろなものである。
まるで、自分のしていることを理解していないように。
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