1441人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
「…………さい…。」
「えっ?」
何かを呟いた。
が、橋の下を通る車の音にかき消されてしまう。
「………ください…。」
……なんて言ってるんだ?
「……をください…。」
何を、と思いつつ、僕は胸ポケットからスタンガンを取り出す。
「ひかりをください…。」
その言葉と同時に、再び彼女の腕が迫る。
先ほどこの手が潰した手すりを思い出し、額に冷や汗が浮かぶ。
破滅の腕が眼前まで迫ったところで、体を軽く沈める。
この少女、腕力は凄まじいがやはり子供、攻め方が直線的すぎる。
普段からケンカ慣れしている自分にとって、落ち着けばこの娘の攻撃を見切るのは容易い。
ちなみにケンカ慣れと言っても、街でガラの悪い人に絡まれたとき、「あなたの髪型、キモイですね」とか「そこまで露出度の高い服着るならいっそのこと裸になったらどうです?」などと、思ったことをつい正直に答えてしまい、結果、回避と逃げの技能ばかり鍛えられたのだ。
威張るコトじゃないが…。
逆に女の子の腕をつかみ、少女の首筋へ、出力を最大まで上げたスタンガンを押し当てる。
ビクンっ、と彼女の体が痙攣し、そのまま力が抜け――――
「ひかりを、ください」
―――なかった。
女の子の腕がスタンガンの先に触れる。
スタンガンがガシャリ、と崩れた。
「あ………」
終わった。
僕の頭を握りつぶそうと眼前に迫る腕が、やけにスローモーションに見える。
この腕が触れた瞬間、僕の頭は豆腐のように、グシャグシャに潰れるのだろう。
ちぇ…やっぱり正直者にも福はないじゃないか。
自分の潰された顔を思い浮かべながら、僕は静かに目を閉じた……。
最初のコメントを投稿しよう!