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『だって…だって、屋上から街を見下ろせば、祐を雲の上から見守っている気分になれるじゃない!』
逆ギレ!?
「ってかそれ本当に雲の上から見守る存在になっちゃうよ!」
『あ、ホントだ。ある意味このおやじには感謝かな?』
「…ああもう、すぐに行くから持ちこたえて!」
ピッ
有無を言わさずに電源を切る。
「美鈴!」
「…ん」
会話内容から状況を理解したのか、美鈴はコクンと頷くと、僕の腕から離れる。
理解が早くて助かる。
彼女がついて来ることを確認し、僕は自宅への道を疾走し始めた。
無事でいてくれ……姉貴!
▼
息を切らしながら、マンションのエントランスホールにたどり着く。
エレベーターを待っているのももどかしく、脇にある階段を使うことにした。
薄暗い照明の階段を二段とばしで駆け上がる。
後ろをちらりと振り返れば、美鈴は僕の三歩後ろをしっかりとついて来ている。
そのことに少し安堵した。
何しろ姉貴を襲っているのは怪物なわけで、一般人の僕が一人助けに行ったところで何の役にもたたないだろう。
屋上の扉が近づいてくる。
僕は、体当たりするようにしてそれを押し開けた。
ビュウ…
冷たい強風が髪を逆立てる。
障害物も何もない、コンクリートの床に覆われた屋上。
そこに、二人の人間がいた。
まず視界に入ってきたのは、血走った目でこちらを振り返った、中肉中背のサラリーマン風な男。
頭髪がかなり寂しくなった彼の両手には、鈍い光を放つ包丁のような刃物が握られている。
そして、同じようにこっちを見ている、金網のフェンスに背中を預けた姉貴。
「遅いわよ!」
よほど怖かったのか、その表情は半泣きだ。
それでも、その姿に安心する。
見たところ外傷も無く、更にこの状況で文句が言えるなら問題ないだろう。
あまりにも無事な姉貴の姿に、僕は体の力がふにゃふにゃと抜けそうになる。
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