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「光をください光をください光をください光をください光をください光をください光をください光をください光をください光をください光をください光を……」
男がブツブツと呟く。
完全に正気を失っているようだ。
隣にいた美鈴が一歩、僕の前に出る。
「『影』狩る。タスク、下がる。」
その言葉と同時に、彼女の左右の手には、それぞれ金色の「鈴」が握られた。
風になびく金髪。
この幼くも頼もしい少女に、僕は強い安心感を抱いた。
「光光光光光光光光光ぃぃぃぃ!!」
標的を美鈴に変更した男が、奇声をあげながらこちらへ駆けてくる。
両手には包丁。
美鈴は躊躇なく「鈴」を投げつける。
2つの「鈴」は弧を描いて男に迫り、その両腕に触れた。
『リン』『リン』
夜の屋上に鳴り響く2つの音。
美しい音色と同時に破裂した「鈴」は、男の両手を跡形もなく吹き飛ばした。
「あ、あ…?」
呆然と、自分の両腕があった場所を見下ろす男。
肩の辺りからは彼自身の血が、滝のように溢れ出した。
「ああああああああああああああああっ!!」
夜の屋上に、絶叫が木霊した。
だがそれも長く続かない。
地面を蹴り、二秒で間合いを詰めた美鈴は、そのまま男の顔面に掌を叩きつけて一言、
「浄」
呟いた。
たちまち、サラリーマン風の男の体が歪み始める。
みるみるうちに形が崩れ、全身が輪郭をなくしていき、黒い影になる。
コンクリートの床に、水たまりのように溢れていた血も、同じように黒く染まっていく。
それらは混ざり合い、やがて宙に霧散してしまった。
美鈴は、この戦闘をわずか15秒の間に
勝利してしまったのだ。
改めて見るとやはり不思議な現象だった。
つい数秒前までそこにいた男が、跡形もなく消滅してしまったのだから。
「…よし。」
ぼそり、と美鈴は呟き、テクテクとフェンスの方へ歩いていった。
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