Chapter1

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姉貴は、子供っぽい顔に呆然とした表情を浮かべて固まっていた。 どいやら目の前で起きた現象を理解できていないようだ。 美鈴がぺちぺちと頬を軽く叩いているが無反応。 「タスク、この人間、気絶してる。」 「えっ!?」 言われてよく観察してみると、目を開けたまま、確かに気を失っているようだった。 なんと我が義姉は立ったまま気絶していたのだ! 「マジですか…」 「マジ。」 美鈴は姉貴を横に寝かせながら応える。 今度こそ、僕は本当にふにゃふにゃと力が抜けた。 冷たいコンクリートの上に、ペタリと座り込む。 しかし、心は温かい安心感で満たされていった。 「良かった…本当に、良かったよ…」 あれ?何だか声がかすれてる。 こちらを振り返った美鈴の顔がぼやけて見える。 「…タスク?」 「う…うう…」 胸の中から、熱いものがこみ上げてくる。 不思議そうに尋ねる彼女に、僕は嗚咽を漏らすことしかできなかった。 美鈴が心配したのか、近づいてくる。 どうしていいのか分からないのだろう、僕の背中を優しくさすってくれた。 そんな彼女を、僕は思わず抱きしめる。 柔らかく、温かい感触が僕を包む。 美鈴が、動揺しているのが感じられた。 「…た、タスク?」 「ありが、とう……」 「?」 「ありがとう…姉貴を助けてくれて…ありがとう…」 カッコ悪い。 16才の少年が年端もいかない少女に抱きついて、涙を流しながらお礼を言っているのだから。 それでも、この感情は抑えきれない。 泣くのなんてずいぶん久しぶりだ。 幼い頃に両親を亡くした僕にとって、姉貴はたった一人の家族だった。 僕がここまで生きてこれたのは、姉貴のおかげと言っても過言ではない。 彼女を心配させないために、両親の死を最後に僕は泣くのを止めたんだ。 でも…その姉貴まで、両親のように僕を置いていってしまっていたら…。 そして、この少女はそれを阻止してくれたのだ。 溢れ出る安堵と感謝の涙は止まらない。 全く、これだから正直者は損ばかりだ。 美鈴はおどおどしつつも、背を伸ばして僕の頭を撫でてくれる。 僕はしばらくの間、この幼い少女の温もりを感じながら、子どものように泣き続けた。
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