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僕と美鈴は、金網のフェンス越しに、夜の十並市の街を眺める。
このマンションの屋上は、市内でもそれなりに高い位置にあるので、街がよく見渡せるのだ。
駅周辺にある市街地の方は、ここ数年の間にずいぶん発展した。
ファミレスにゲーセン、レンタルビデオ店にCDショップ。
裏通りに行けば、ホストやキャバクラ、怪しいホテルや風俗店まである。
(行ったことはないですよ!?)
こちらの住宅街とは正反対に、10時を過ぎた今でも明るさを保っていた。
その中ではたくさんの人たちが、様々な想いを胸に生活しているのだろう。
数秒後には自分が「影」にされ、身近な人を襲う怪物にされるかも分からない、そんな状況も知らずに……。
「ねえ美鈴」
「ん」
さっきはあんな事をしてしまい、お互いに気まずい雰囲気だったが、彼女はあまり根に持つタイプではないようで、今は普通に会話が(相変わらず無口だが)できる。
「人間はみんな、無抵抗のうちに「光」を奪われちゃうのかな?」
「『影』、頑張れば何とかなる。でも光喰らいに人間、かなわない。襲われたら、そこでおしまい。」
美鈴は無情に告げる。
その言葉に、僕は沸々と怒りが沸くのを感じた。
彼女に対してではない。
世の中の理不尽さにだ。
美鈴のおかげで、僕は悲しい想いをしなくてすんだ。
でも、世の中にはそうはいかなかった人もいただろう。
自らが「影」になって、大切な人を殺してしまった人もいるかもしれない。
だから、一つの決断をする。
頭に浮かんだことを、そのまま正直に口にした。
「美鈴」
「?」
一度息を吸い、
「僕にもキミの「狩り」に協力させてくれないか?」
「だめ。」
速攻で否定された。
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