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彼は不思議な「人間」だった。
今までにも「影」に襲われていた「人間」を助けたこともあったが、大体は状況を理解できずに錯乱したり、ワタシを化け物扱いする「人間」ばかりだった。
タスクは違った。
偶然とはいえ、彼を助けたのは事実だが、「ありがとう」 と言われたのは初めてだった。
それは「人間」に対してではなく、シティ……狩人の人たちからも言われたことのない言葉だった。
「ありがとう」が感謝の意を表す言葉だとは知っていたが、それはあくまで知識としてだ。
面と向かって言われたあの時、何だか恥ずかしいような、かといって不快ではなく、嬉しいような、そんな不思議な気持ちになった。
事情を説明して欲しい、と言われたとき、ワタシは断ったことを少し後悔していた。
ワタシに初めて「ありがとう」と言ってくれた彼に、少しくらいなら自分を知ってほしいと思ったから。
だから、たまたま落ちていたプリンを理由に、ちょっとどころか、かなり詳しく……自分が疲れるくらい、事情を説明してしまった。
彼からの質問に、ワタシへの興味を持った内容が含まれていたのがとても嬉しかった。
そしてタスクの姉を助けた時、いきなりワタシに抱きついてきたうえに泣き出したのにはとても驚いた。
どうしていいのか分からず、昔自分がされたように―――誰に、かは覚えていない―――背中や頭を優しく撫でてあげた。
腕の中で、彼が「ありがとう」と言ってくれたとき、ワタシは本当に嬉しかった。
彼が、タスクがワタシの存在を認めて、感謝の気持ちを示しているのが分かったから。
「タスクは、初めてワタシを認めてくれた」
ワタシも嬉しさのあまり泣き出しそうになった。
明日からはタスクと一緒に行動できる。
そう思うと、口元が自然と緩んでしまう。
街灯の下で談笑していたサラリーマン二人が怪訝な目を向けてきたが、そんなものは気にならない。
こんな幸せな気分になったのは初めてだから。
スキップでもしたくなる衝動を抑えつけ、喜びを噛みしめながら、明日もタスクと会えることを思い浮かべ住宅街を駆けていった。
◆【interlude out】◆
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