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暖かな日差しを浴びて、春紫苑が揺れています。
長い茎の先についた花は淡い桃色で、糸のように細く繊細。
小さな蕾は俯きながら、花開く時を待ちわびています。
鮮やかな緑色の葉は先にいくと細くなり、その葉を風に揺らして踊る。
道行く人は、誰も春紫苑を見ません。
美しく咲く花なのに、皆忙しげに前だけ見て歩いています。
『こんなに青い空なのに、誰も空を見上げない。
こんなに元気に咲いているのに、誰も私を見てくれない。
美しいと手折られるならば、それでもいい。
だけど人は、誰も私を気にしない。
花が美しく咲いていられる時間は限られている。
誰か私に気がついて…』
春紫苑は歌います。
春の歌を。
命の歌を。
近くに咲く小さな青い花が、春紫苑を見上げました。
『歌わないで、人に見つかる』
小さな青い花が、春紫苑に頼みます。
『何故ですか?私達は人に愛でられ、人に安らぎを与える為に生まれたのに』
春紫苑の言葉に、青い花は可憐な花びらを揺らしています。
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