力の使い方

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  僕は卵焼きをかじった。 「そーいやぁよ。お前そんな前髪で前見えんの?」 「え、あ…う、ううん。実を言うと、見えにくいんだ」 「ハア?じゃあ前髪切れよ。バッカじゃねぇの?」 「あ、うん…ちょっと、事情があって、前髪は切れないんだ」 母さんが、嫌がるから…。 父さんに似たこの顔を、母さんが嫌がるから…。 だから、切れないんだ。 金澤さんは、ふーん、と素っ気なく返事をした。 「ま、別にどーでもいいけど」 「そうだね」 金澤さんなら、そう言ってくれると思ったよ。 僕は微笑みながら、空を見上げた。 雀が二匹、じゃれあいながら飛んでいる。 『ちょっと、くすぐったいってばあ!』 『ココ虫付いてるよ』 『きゃははは!』 ふあー、いいなー…。 金澤さんとあんな風に仲よさ気に出来たらいいなぁ…。 「おい」 「いてっ」 ピシッとでこぴんをされ、僕は思わず体を強張らせる。 叩かれたところをさすりながら首を傾げて金澤さんを見た。 金澤さんは不機嫌そうに眉を寄せている。 「なーにぼーっとしてやがんだ」 「あ、いや、今雀が…」 「ハア?スズメ?」 「あ、ううん、何でもないよ」 僕はごまかすように、てへへ、と笑う。 そっか、金澤さんには聞こえてないんだもんね。 雀の声も、制服の声も、草木の声も全部…。 僕だけ。 それは特別で、周りから見れば羨ましいことなのかもしれない。 けど、僕は何より… 疎外感、のようなものを感じていた。 まるで僕だけ仲間はずれにされているような…。 そんな感じの方が、強かった。
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