雷光

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 光秀が道三の別邸に呼ばれ、密かに逗留して三日後。  噂通りのウツケがたった一人で顔を出した。和議が成って居るからとは言え、畏れげも無く、勿論正式な訪問であるわけがない。  装束もそう呼ばれるに相応しく、ざんばらを茶筅に結い上げ、荒縄で締めた着流しの裾をはしょっている。その姿は、とても一城の主とは見えなかった。座り方も荒々しく片膝を立て、時には寝そべりながら肘を付いて居る。  光秀は二階の別室から道三を待つ信長を見下ろしていた。  その位置は丁度信長の居る辺りを見下ろせる位置である。道三からは合図があればへ来いとは言われては居たが、少々狙い過ぎな気もした。  しかし光秀はただ苦笑する。 ――相応しいか否かの試験、なのだ。相手が私である事は不服だが。  思い嘲った時。  ようやく道三が、饗応の支度と共に信長の元へ現れたのが、ちらと見えた。帰蝶も共にそこに顔を見せているだろう。だが初めて顔を合わせるというのに、帰蝶の美しさに感嘆するでもなく、顔色一つ変えず、かえって憮然としているらしく見えた。  この婚姻の使者にたってきた平手の言葉通り、例えば女などに溺れる、そんな並の男には見えない。  道三が眼を向けた。かねてからの合図である。光秀は音を立てずに、道三らの部屋の奥の間に控えようと腰を落とす。  その時だった。背がぞくりと粟立ったのは。 ――道三である筈がない。まさか信長……。  それは殺気だった。しかし襖の向こうでは饗応が続き、聞こえる声にその様な印象は全くない。 ――これは、存外だ。  俄然信長に対する興味が湧く。  光秀は細い指の刀たこで唇を撫でた。知らず口角が上がっている。  その信長に初顔合わせの段となり。途端に消えた殺気に光秀は腹の内で舌打ちした。  嫡子ではあるものの、まだ尾張を継ぐとさえ決まっていない。そんな男がまるで対等というように、美濃の半分を手中とする道三と、あくまで悠然と話をする。光秀の事は話題の元だけという扱いだ。  光秀の心がざわつく。  表面のみの歓談をしながらも、そのざわめきは着実に心を埋めていった。  馬鹿らしい話をさも楽しいかのように話すことも、この場に居るのは道三だけであるかの様な態度も、何もかもがその男と光秀とを隔てた。
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