第二話~殺戮のチェスゲーム~

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「……大将」 「………………」 「議長……」 「……」 「大将!!もう無理です!ご命令をっ!」 「黙れ、黙れ、黙れっ!わしに立てつくのか!?」 「このままだと後方と前方から挟み撃ちにされます!その前にラサに御脱出を!」 その頃地上の戦線では、プリズンとドラグートとの戦況は逆転していた。正面からプリズン軍をむしゃり食べるドラグート軍勢。   側面からは、帝国側が一番最初に伏兵として用意してあった一万の歩兵。   そして後方からは、ラサから駆け付けた二万の軍勢を足止めするかのように現れた、新手の二万のドラグート将兵。   そしてこれまでに出した予想戦死者はプリズンが八千。それに比べてドラグート側は五千。プリズンの犠牲者数は時間が経つと共に、増加の一途を辿っていた。 本陣にもいよいよ、前進移動してきた魔導砲による砲撃が浴びさせられようとしていた。 次々と防衛線は潰され、本陣のやぐらにいる兵士達にも、逃げ出そうという焦燥感に溢れていた。 レイナやティナ、クレイというと、固く口を閉ざしたままアルファの動向をうかがっていた。 アルファはわなわなと握り拳を震わせているとついに決断をする。 「く、くそっ!退却じゃ!退却!後方の敵を潰しラサに籠城する!」 「は、はい!」 アルファの声は周囲にいた兵士達の束縛を解き放ち、旗手は前線に退却の信号をラッパと共に送る。 「なにっ!?退却!?」 その時前線で戦っていたプリズン将兵の大半が後方に振り向いたのは言うまでもない。この報を聞いたラッシュは、長剣を敵の奥地へと向ける。 「追撃だ!一兵足りとも逃がすな!」 ドラグートの勢いはプリズンの退却に乗じて増し、次第に足止めしていた重歩兵の鉄壁をじりじりと押していった。大盾が隙間なく並べられているのだが、数で勝る軍勢相手に成す術は無かった―― そしてプリズンの前線部隊が無力化された頃には、既に本隊は後方を突破し、ラサからの援軍と共に戦線を離脱していた。 ラッシュは早々と乱れた部隊の再編成を行う。 そこに、白の紳士服に身を包んだ男が現れた。 「やぁラッシュ君。キングにはまんまと逃げられましたね」 「ハウザー将軍。あんたの計画通りだろ。だが敵に籠城されては下手に攻撃できない。どうするつもりだ?」 ハウザーであった。 彼は満足気な表情を浮かべてラサの方角へと目を向けていた。
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