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「痛い…」 左手はボロボロで既に感覚は無い もう700本は引いただろうか イカンゾーは弓を置いた 矢取りに行きながら考えた
「もう少しだ 百田(ももだ)流八大奥義の七つまでは完成した あと少しで究極奥義・稲妻離れが完成する…」
再びイカンゾーは弓を握った…
その前年 イカンゾーは地区の試合で負け続けた 中でもイカンゾーの住む筑後地区に君臨する悪魔八将軍と呼ばれる八人の強豪選手には全く歯が立たなかった
「八女も地に落ちたもんだ…」 かっては強豪弓道会として名前が知れ渡ったイカンゾーの所属する八女弓道会も近頃は評判を落としていた
明日は柳川弓道会との対抗戦である 負けるわけにはいかなかった
イカンゾーは全身筋肉痛だった 昨日の付け焼き刃の猛練習がたたり身体に力が入らない しかし今日は柳川弓道会との練習試合である 柳川には悪魔八将軍の一人 斗川がいる 斗川は酒を飲んで抜群の的中を誇る酔弓の使い手だ
「こいつには負けたくない」 イカンゾーは思った 何故なら試合の合間の楽しみでイカンゾーが持ってくる名酒を いつも半分以上飲んでしまうのが斗川だからだ
試合は八射 斗川が先に射終わり四中 試合前の開会式でイカンゾーが「飲酒は控えて下さい」と言ったのが功を奏した
イカンゾーは七射の時点で四中し並んでいる
「最後はあれだ!」 イカンゾーは最後の一射に百田流奥義を使った!
「沈む胴造り~っ!」 イカンゾーは叫んだ! 胴造りとは弓道の基本である足腰の姿勢だ 胴造りの基本は足腰肩の平行と重心を低くすることである つまり足が短い人ほど重心が下がり射が安定する 見るとイカンゾーの身体は弓を打ち起こすと同時に沈んでいるではないか!
「おおっ あれはっ!?」見ている者から感嘆の声が上がった
なんとイカンゾーは膝を曲げていた! そのまま膝をつき正座をすると一気に弓を引き分けた 「胴造りがゆるがない!」 皆の囁きが聞こえる 当たり前だ 座っている
次の瞬間 放たれた矢は見事的の端っこに的中した!
「勝った…」 歓声が上がった
斗川が言った 「次は酒 用意しといてね」
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