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レピスが不意に席を立ち、近くに掛けてあった外套を手に取った。
もう何年も着続けられ、ボロボロになった裾。
かつてはその柔らかな布を彩っていたのであろう、細かな刺繍も色が褪せ、所々、切れてしまっている。
けれど、それらは過ぎた時の哀愁を感じさせるものではなく、逆に、久しぶりに訪ねた祖母の顔を見たときに感じるような、不思議な安心感を、見る者に与えるものだった。
少年は、非常にゆっくりとした動作で、それを羽織る。
その様子を見つめながら、セピアは問うた。
「どっか、出掛けるの?」
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