世界のこと

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  セピアは今日も、その塔を訪れていた。 村の外に広がる草原の、その更に向こう側に聳える古い塔を。 その表面の苔生した、巨大な石で出来た外壁に向かって、少女は声を張り上げた。 「レピス!」 返事は、ない。 けれどセピアは気にすることなく、じっと塔を見上げていた。 「どうせまた、何かに夢中になっているんでしょう?」 草原から吹いてきた緑の風が、セピアの脇を掠めて、塔の外壁を駆け登っていく。 その風に、自分の訪れを知らせる言葉をそっと乗せて、それから塔の頂へと続く、狭い石造りの階段へ、セピアは一歩踏み出した。  
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