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成金趣味を感じさせる、町のなかでもひときわ大きい屋敷の前にたくさんの人が集まっていた。
屋敷の入り口は、何人かの警備隊の者で封鎖されており、辺りは物々しい空気が漂う。
まだ生臭い血の臭いが残っており、昨晩ここで何が起こったかは誰に教えられずとも明白であった。
「ついに狙われたか」
野次の一人が囁く。
「あの盗賊―――シェーラ=サウスに」
「またやられたな……」
そう苦々しく呟いて、凄惨な光景の広がる部屋を青い双眸が見つめていた。
屋敷中に広がる、むせ返るような血の臭いが、事の総てを物語る。
カツカツと規則的な足音とともに、一人の青年が部屋に入ってきた。
「ラス隊長」
「カズナ。どうだった」
「やはり何も痕跡は残っていません。屋敷の物はほとんどがそのままに」
返ってきた言葉に、彼はさらに眉間に皺をよせた。
「アイツか……わかった。では我々は引き上げる。後はこの町の警備隊にまかせるよう皆に伝えてくれ」
「わかりました」
上司の言葉に従い、すぐに部屋を出てゆく。
気配が消えたことを確認して、誰もいない部屋に向かい彼はそっと呟いた。
まるで大切な者に向かって告げる、艶めいた独白のように。
「今度こそ。お前は俺が必ず捕まえてやる――――シェーラ」
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