ぬばたまの夜

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   巷では義賊と囁かれているこの女盗賊シェーラ=サウスの、その口から。 (嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!)  因果応報。その言葉を男は知らなかった。  ただ自らの生への執着しかなかった。  それが自分の人生を破滅へ導いたというのに。  憐れねと、シェーラは心の裡で呟いて、そっと瞳を閉じた。  階下からの断末魔や喧騒が遠く、小さなものになっていく。もう潮時だ。  床に広がった血を踏みつけて、シェーラは一歩踏み出した。 「誰か!誰か来てくれ!!」  半狂乱になって男は叫ぶ。その無様な様を冷ややかな目で見つめ、シェーラは右手を一振りした。 「がっ!!」  小さく声を上げて、それきり、男が二度と言葉を紡ぐことはなかった。  胸には三本の細い糸が突き刺さり、力なく、男の体が前に倒れる。ゆっくりと広がる血の海を無感情にシェーラは見下して、やがて踵を返して部屋を後にする。  この男に追悼の意を持ち合わせるほど、自分は優しい人間ではなかった。  すでに静かになっている階下に下りると、夥しい数の死体が転がっていた。
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