第三章 ゼルダ・フィッツジェラルド

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何日かが過ぎました。 ニモは立派な大人のカクレクマノミになる為に毎日元気一杯に泳ぎ回っています。 ある日、水槽の外に人間が覗いています。 ニモは人間の事が大嫌いになっていますし、人間達がニモの事を覗き込んでいるのはよくあるのでいちいち気にしていられないのです。 「くっくっくっくっくっくっくっくっ…………」 人間が笑い出しました。 ニモはその笑い声が判るのにびっくりしました。 いつもは人間の言葉なんてちっとも判りません。逆にニモの言葉も人間にはちっとも判りません。 「誰かいるの?」 ニモはもしかしてと思って水槽の中を簡単に探してみますが、誰もいません。 「ここだ、ここ。水槽の外だ、そ・と」 人間は水槽をコンコンとノックしながら言います。 「ボクの言葉が判るの?」 「勿論。俺様は人間じゃないからな」 人間はニヤリと底意地の悪そうな笑顔で言いました。 人間の事をよく知らないニモにはそもそも人間の区別など出来ません。しかし、この人間はニモの言葉が判るみたいです。 「キミは、人間じゃないの?」 ニモはおっかなびっくりしながら訊いてみました。 「そうだ。俺様は偉大なる大悪魔の一人、ゼルダ・フィッツジェラルドさまだ」 人間――――ゼルダ・フィッツジェラルドはふんぞり返りながら言います。 ニモは不思議そうな顔をして目をぱちくりと何度もまばたきします。 いきなり名前を名乗られてもびっくりするだけです。尤も、ニモにとってゼルダ・フィッツジェラルドなんて名前は物凄いへんてこな名前なのですが。
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