52人が本棚に入れています
本棚に追加
「何か食いてえもんあっか?」
夕方、もう地平線に半分を飲み込まれた夕日が、病室のベッドで花瓶の花をいじるアイツを紅く染めた。
「ううん、大丈夫だよ!ごめんね裕。」
俺を[裕]と呼んだアイツ。
[篠原 雛](しのはら ひな)は、俺が生まれて間もない頃からの幼なじみ。雛の両親は、五年前に他界していて、一人っ子のアイツは俺の家で暮らしていた。
「ったく…謝んなって言ってんだろ…」
元々体が弱いのか、雛は昔からすぐに発作がおきて、入退院の繰り返しだった。
今回、病院にいるのもソレが原因なのだが。
雛はよく謝る。
何かにつけ「ごめんね」が多い。体が弱いのは仕方ないことなんだから、別にそこまで念入りに謝んなくても…。
俺だって当たり前の事だからやってるだけなのにな。
「とりあえずもう寝ろよ。体に響くぞ。」
「え~!!ヤだ!」
「お前はいくつだよ…」
こう言って、雛の左頬を軽くつねり、痛がる雛を見てお互い笑い合う。
いつものことだ。
「あ、そだ。なあ雛、お前ガラス細工好きだったよな?」
「え?うん!どして?」
「いや…こないださぁ、イイトコ見つけたんだ。だから…落ち着いたら行ってみないか?」
「ホントに!?じゃあ裕のおごりね!」
「やっぱりそう来るのかよ」
嘘です。大分前から店さがしてました。
雛はそんなことも知らないで、ただ無邪気な笑顔をばらまいていた。
俺の大好きな
あの笑顔。
「だからちゃんと復活しろよ。」
「…うん…!」
あれ?
今…
雛の表情
曇った…?
最初のコメントを投稿しよう!